どんなときでも、オレはアンタに会いたくなるんだ。

 ひまわり


「旬平くん!どうしたの!?」
キラキラ朝日を浴びて、あの人が走ってくる。
少し寝癖のある髪、薄手のパーカーにキャミソール、ホットパンツっていう目のやり場に困る……もとい、ラフな格好。
「さすがのアンタでもこの時間には起きてなかったか−!」
思わず笑うと、美奈子ちゃんは慌てたように髪を押さえた。
「ま、まだ寝癖ある!?すっごい直したんだけど直らなくて!」
「いいよ、そんなの。慌てるアンタっていう面白いもん見れたし」
「もうっ!」


眩しい日差しが照りつけていてもどこか涼しい香りのする、夏の朝。
朝というより、もはや早朝、オレはこの人んちの近くにある公園に呼び出した。
メールでただ一言、”起きてる?”そう入れて。
時間で言うなら7時半、正直言って返ってくると思っていなかった。
なんせ今は夏休み。ごく一般的な高校生なら、正直午後まで惰眠を貪っていてもおかしくない、いわばサマーバケーションってやつ。
だけど思った以上に早く来た返信は、いつも件名もちゃんと入れるアンタらしくもない”Re: ”。
本文こそ”どうしたの?”なんていつも通りだったけど、オレはその”Re:”がとてつもなく嬉しかったんだ。
もしかして慌ててくれたのか、オレのメールで、アンタを起こしたのかな?ってさ。

ちょっとだけ息を切らしたアンタが、まだ気になるのか右手で髪を押さえてオレに近寄る。
「それで、どうしたの?ビックリしたよ」
見上げるアンタも可愛いなあ。でもそのカッコでそれ以上かがむのはナシな?
「まあまあまあ、とりあえず」
パーカー部分の肩を押して、かがむアンタの上半身を起こして。
「溶けちゃうからさ、一緒に食おうぜ」
コンビニの袋を目の前に取り出すと、彼女は嬉しそうに笑った。

「やー、なんかさ、急にジョギングしたくなってさ」
ジャングルジムのてっぺんに座って、ソーダ味の棒アイスをかじる。
「え、どうしたの?嵐くんが聞いたら嬉しがるよ?」
美奈子ちゃんはオレの隣、といっても一番下の棒に座ってアイスを持って、オレを見上げている。
「そういうんじゃねえって!……けど、なんかいいじゃん?天気いい夏の朝ってさ。起きたらそういう気分だったんだよ。
そういうノリっつーか?あの人みてえな熱血なんじゃねえし!」
ガリガリ音を立ててかじりながらそう言うと、美奈子ちゃんはクスクス笑い出した。

……そりゃあ、確かに?
前のオレだったら、そういうのウゼエじゃん?って思ってたかもしんない。
早朝ジョギングなんてタリイこと、とかなんとか。
でも、この人と出会って、あの人と出会って、うっかり柔道なんて始めちゃって。
それで思い出したんだ。体を動かすこと自体は、そう嫌いじゃなくて、むしろ気持ちいいこと。
何かに熱中するのは、わりかし面白いこと。
それと、夏の朝は、昔から嫌いじゃないこと。

「っていうか、なんでてっぺんにいるの?」
美奈子ちゃんが覗き込むように見上げてくる。
「え、だってなんか気持ちくねえ?」
なにそれ?と言いながら、美奈子ちゃんは、なんだか今日の旬平くん、子どもみたいだね?と笑った。
今日”の”、ならいいんですけどね。いつもそう思ってねえことを祈るよ。
「気持ちいじゃん。上のほうに行くとさ」
「……なんとかと煙は……」
「ちょっ、ちっげえし!オレのは夏の朝限定!上のほうのが、空気が涼しいっつうかさぁ」
「ウソ。分かってるよ。なんか、澄んでる感じがするんでしょ?」

ニコニコ笑って見上げたままのこの人は、相変わらずオレのツボをついてくる。
分かってもらえるってのは、本当、嬉しい。

「……まあ、そういうコト。んじゃ、オレそろそろ行くわ」
「えっ、もう行っちゃうの?」

……じゃあ、もうちょっといる……と言いたいところだけど。
「アンタにも用事とかあんだろ?せっかくの夏休みなんだし、ちょっと通りかかっただけだから」
言いながら立ち上がる。と、
「あっ、降りるのちょっと待って!」
「ん?」
動きを止めると、美奈子ちゃんは慌てたように立ち上がり、そして少し離れてから……両手を広げた。
ニコニコ、って擬音が聞こえてくるんじゃねえかってくらいの、超、満面の笑み。

「……それって、イヤなんとなく悪い方向に予想はつくけど、一応……何、それ」
「何って、分かってるんでしょ?ほら、」
キラキラ太陽に照らされながら、本当に楽しそうに。

「おいで!」


……やっぱり。

いや、無理でしょどう考えても。何考えてんだかまたこの子は。
「無理かどうかわかんないじゃんやってみないと!こういうの憧れてたし!」
「いやアンタそれ普通逆じゃね?」
無視して普通に棒を伝って降りる。後ろから美奈子ちゃんのブーイングが聞こえる。


――もし、オレとアンタの関係がさ。
さっきの位置みたいに、オレが上で、アンタが下で。
そしたら、オレは色んなコンプレックスみたいなの、とっぱらって、
おいで、とか言われても、それって年下だから?とかくだらねえこと、思わないで飛び込んでいけたのかな?

でも、それでも、オレはさ。



未だ両手を広げたまま、”旬平くんノリ悪い!”とか文句垂れてるアンタに近づく。
アンタの可愛い寝癖に触って、なに?そう言いかけたアンタを、ふわりと持ち上げた。

「……え、なに、旬平くん!?」
「アンタ、軽いねー。何入ってんの?」
「は、恥ずかしいから下ろして!」
ジタバタと暴れるアンタを無視して、そのままもう一度ジャングルジムへ戻る。
暴れると危ないですよー、服とか、色んな意味でー。そう思いながらも、あえて口には出さないまま、
腕の届くギリギリライン、一番高いところへ座らせた。

見上げると、アンタの顔越しに、太陽が光っている。
アンタの寝癖のついた髪も、少し戸惑った顔も、ソレと同じくらいに眩しく見えた。


「……うん、やっぱさ、オレはこの位置がいいんだ」
「え?何?」

「今日、やっぱオレとどっか行かね?って言ったの!」

驚いた顔が、とびきりの笑顔に変わるから、やっぱりアンタはオレの……


――思いついた単語が、我ながらイタくて恥ずかしかったから、

……見上げていたくて、追いかけていたいくらい、素敵なセンパイ、ってことにしとこう。

そう心の中呟いて、笑うアンタを抱きしめた。






END









―――――――


あっのこはたいよーのこまち!えーんじぇーる!!

……そう言ったアレです。
「朝」と「ジャングルジム」で話を作ろう、ということになって考えたネタ。
ニーナは年下をことあるごとに気にしますけども、
実際はそんな関係も嫌いじゃないんじゃないかな、と私は思ってます。


2011.06.12



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