アンタと一番仲がいい男は、オレなんじゃないかって自惚れてたんだ。 よく一緒に帰ったし、放課後喫茶店にもよく行ってたわいもないこと話した。 デートなんて数え切れないほど行った。アンタからよく誘われて、オレから誘っても断られることはほとんど無くて。 (あると言えばフリマくらい。あんま好きじゃねえのかも) 花火大会も初詣も一緒に行ったり(しかも浴衣とか振袖!気合い入っててマジ最高!) バイト先まで一緒だし。それに腕組んだり手繋いだり、なんかペタペタ触られる。 いやそれほど仲良くないときからされてたような気もするけど、他の人にも結構スキンシップ過多な気もするけど……。 …………でも、あそこまでするのはやっぱオレだけなんじゃねえかって思う。思いたい。 何より。 オレは、入学前、4回も偶然あの人に会ってる。 偶然にしては出来すぎってくらいの確率で、オレがあの人を助けたり、あの人がオレを助けたり。 これはもしかして運命なんじゃねえかって思った途端会えなくなったのはご愛嬌としてもさ。 そのあとこうして再会して、再会した途端デートとかコンスタントにしちゃって。 あの人もしかしてオレのこと?ってさ。思っちゃうんは仕方ねえって思う。 今日、あのときまでは。 「ニーナ!」 その可愛い声は振り向かなくてもオレの可愛い人だと分かる。オレの、なんて、なんちゃって。 可愛い人はパタパタとオレに駆け寄る。周りがみんな彼女を見てる。 「今日、一緒にお弁当食べよう?作ってきたの!ニーナの好きなのもあるから!」 アンタのお弁当とか!断るわけないし!是非ご一緒させて頂きます、センパイ。 「ふふっ、くるしゅうない!じゃお昼休み屋上で待ってるね?」 ははー! 「おもてをあげよー!…あ、次、移動教室だからまたね?」 バイバイ、と手を振りながらこれまた可愛く去っていくあの人の背中を見つめながら、自分でも今オレは締まりのない頬をしていると分かる。 「新名!お前今の次のローズクイーン候補の小波先輩だろ!?」 そだね。 「その先輩と弁当ってなんだよ!?ズッリイ」 「あー、その話あんま首突っ込むと返り討ち合うからやめた方がいいぜ」 「は?なにが?」 ……その小波先輩と先週末も今週末も来週末もデートするんだったりして。 「は!?」 「あーはじまっちったよ俺もう聞きたくねーから先行く」 「何だよソレ付き合ってんじゃん!」 ……そこなんだよ。 「え?なんて?」 「なんでもねえよ」 問題はそこなんだ。 こんだけ遊んで色々行ったり言ったり言われたりしたけど、まだ付き合うとかそういう話にはならない。 オレは決めているのだ。”こうなったら告白する”と。 「それでね、カレンがそのとき……」 「あれ?カレン?こないだまで”花椿さん”じゃなかった?」 美奈子ちゃんのそれはもう美味なお弁当を、なんとなく周りの視線が痛いような気もする屋上で味わいながら美奈子ちゃんと話す。 この人のそばにいると、いつもこんな視線を感じる。本人は気づいてねえみたいだけど……見られすぎて感覚麻痺してんのかな? 「あ、気づいた?呼び方変えてみたんだ。仲良くなったから、許してくれるかなあって」 「へー……えーと、あの人のことはなんて呼んでんの?ほら、いつも一緒にいるもう一人の……」 「みよちゃんのこと?あのね、本当はみよちゃんのことはミヨちゃんって呼びたいんだけどダメみたいなの」 「オレには違いがわかんねんだけど」 「みよちゃんとも仲良くなれたから、この間までは宇賀神さんって呼んでたんだけどね、なかなかタイミングがなくって…最近やっと変えられたの」 うん。知ってた。 「そうなんだ、良かったね?」 「うん!ありがとうニーナ!」 ……オレの”こうなったら”とは、これのことである。 この人は、オレのことをニーナと呼ぶ。可愛いし、それはいい。 でも、オレは最初から、この人のことは名前呼びだった。 仲良くなって、勇気出してチャン呼びしてもいいってことになったときも、オレは実は少し期待してた。 アンタから、「わたしも名前で呼んでいい?」って言われるんじゃねえかって……。 「……ニーナ?聞いてる?」 体育座りしているオレの膝の横をチョコンと人差し指で押して、美奈子ちゃんが顔をのぞき込んでくる。 あーもう、そんな姿まで可愛いんだから。 「ゴメンゴメン。あんまり弁当が旨くて。彩りも最高!」 「ホント?嬉しい!」 笑顔も可愛い。 「……ニーナってさぁ、褒め上手だよね」 「えーと?なんでふくれっ面?」 「……他の子にも、そうやって褒めたりしてるのかなぁって」 なに、ソレ。 「べつにぃ。なんでも!」 フォークをクルクルと空中で回しながら、わかりやすく拗ねてる美奈子ちゃん。カワイイ。可愛すぎる。 ――別に、いいか。ニーナでも。そう焦って告白したいってわけでもねえし、今のままでも、十分――…… 「あっ」 オレがいつものようにニーナ呼びに甘んじようとしていると、向こうから歓声が上がって、それに美奈子ちゃんが反応した。 どうしたんだろうね?そう言おうとした途端―― 「琉夏くん!」 そう言って美奈子ちゃんが立ち上がり、歓声の上がったほうへ走り出した。 ――えっ? 「もうっ、6月になったからってタイトロープしちゃダメでしょ!」 「なにそれ?」 「危ないことはしちゃダメってこと!」 人混みの中から、美奈子ちゃんと琉夏さんの声が聞こえる。 そのうち琥一さんの声も聞こえて、美奈子ちゃんは、ホントにもー、とか言いながらオレの元へ戻ってきて……。 ――えっと、今、なんて……? 「ごめんねニーナ。琉夏くんがまた危ないことしてるって、なんとなく分かったから、つい」 え、いや、ていうか、琉夏さんのこと、琉夏くんって呼んでんだ……? 「? うん、アレ? ニーナの前で琉夏くんのこと呼んだことなかったっけ? 幼なじみなんだよ!」 いや、うん、それは知ってる、け、ど……。 「琉夏くんと幼なじみってことは、分かると思うけどコウくんともおさ」 「コウくん!? 何ソレ琥一さんのこと!?」 「え!? え、え? そうだけど……」 ……琉夏くん、コウくん、って、何、それ、オレ、ニーナなのに? オレ、ニーナ、なのに……? 黙ってしまったオレに、美奈子ちゃんは”何かよく分からないけど話題変えたほうがいいかも?”って顔をして、慌てたように口を開いた。 「あっ、そうだ!ニーナ覚えてる?前生徒会長だった……ニーナとは一年間しか一緒じゃないから知らないかなぁ?」 ……何?知ってるよ、玉緒さんでしょ。 「良かった。その玉緒先輩がね」 ホント、アンタと一番仲がいい男は、オレなんじゃないかって自惚れてたんだ。 ……このときまでは。 完全に黙ってしまったオレに”なんだか分からないけどマズイことを言ったみたい?”みたいな顔した美奈子ちゃんが色々と話しかけてくる。 玉緒先輩嫌いだった?とか、琉夏くんとコウくんは無事だったよ?とか、随分見当違いなことを言ってる。 違うよ。ホント突拍子もねえなアンタ。見当違いにもホドがあるっつの。 ……だけど、オレをどうにかしようと困ってんのだけは、分かる。 ホントは、この人にそんな顔をさせたい訳じゃない。 オレのことも名前で呼んでよ、って言ったら、この人は絶対そうするだろう。そんな、深く考えることじゃねえよ。 分かってる。分かってるんだけど、でも、なんとなく、アンタのほうから自発的に……なんて……。 「……それでアンタ困らせてたら意味ねえよな」 「えっ?」 なんて言ったの?って顔の美奈子ちゃんのほうを向いて、だいぶ人も少なくなってきた周りを見て。 「アンタ、オレに抱きしめられてくんない?」 「……えっ?……え、ええ!?なんで!?」 「いーじゃん、オレちょっと元気なくなっちゃったの。癒やして?」 こう言えば、優しいアンタは許してくれる自信があった。卑怯かもしんねえけど。 案の定、美奈子ちゃんは困ったようにあー、とかうー、とか言ってしばらく目線をウロウロさせて、 そのうちに意を決したように、わかった、とだけ言って。 「ハイ」 目を閉じて、頭をこちらに向けて、じっとした。 なんで、目を閉じるかな。ちゅーしちゃうぞ。……しねえけど。 遠慮なく美奈子ちゃんの肩に触ると、美奈子ちゃんがビクリと反応した。 「……何。アンタ、いっつも人のことペタペタ触るくせに」 「触られるのは慣れてないの!それにそんなに触ってない」 無自覚なのか。こええな。 ちょっとだけ力を込めて、出来るだけ優しく腕の中に引き寄せた。 美奈子ちゃんのサラサラした髪の毛が、オレの顎のあたりを掠める。 ふわふわ、いい匂いがして、あったかくて、やわらかくて。 ここが学校の屋上でなければ、これはやばかった、というか、今もやばい、かも。 「美奈子ちゃんシャンプー何使ってんの?いい匂い」 気分を誤魔化すように話をしだすと、美奈子ちゃんはオレの腕の中身じろぎしながら、 「また、そうやって褒めるんだから……」 そうクスクス笑った。 美奈子ちゃんが喋ると、オレの体に直接響いてきて、ああオレは今美奈子ちゃんとくっついてるんだなと実感した。 あー、これは、非常に、マズイ。……マズイ、が。 ……でも、うん、ちょっと、落ち着いた。 なんて呼ばれようと、この人が他の人をなんと呼ぼうと。 たくさんデートしてんのはオレで、振袖を見れたのもオレで 今、この人を抱きしめてんのも、オレだ。 そりゃ、寂しくないって言ったらウソだけど。だいぶ、ウソだけど。 でも、こういうのは強制するもんじゃない。 そのうち、いつか、呼んでくれるさ。うん。 だって、運命なのもきっと、オレだって、信じてるから。 「……ねえ、そろそろ支度しないと、お昼休み終わっちゃう時間なんじゃない?」 んー?んー……でも、もうちょっと。 美奈子ちゃんの髪に顔をうずめる。幸せだ。 「もう……。……あのさ、ニーナ」 んー? 「ニーナは、自分の名前、嫌い、とか、なの?」 んー?そんなこと………………え? 「だって、昔ニーナのこと名前で呼んだら、すっごい怒られ」 「えっ!?」 「……えっ?」 ”旬平くん!” ”……オレ? それでOK出せる男、見つけたら絶っ対、手放さないほうがいいぜ。 ま、オレじゃあないってことは確実だけど。んじゃ、お疲れ〜。” 「…………うそ、だろ」 「何が?」 忘れてた。何?なんでオレ、あんな、そんな…… ……いや、うん、カンッペキに思い出した。 確かにあのときは、旬平クンって響きが、なんかバカにされてるっつーか、年下扱いっていうかそんな感じがして そんならまだ呼び捨てのがマシ!……ってもアンタそんなオレと仲良くねえだろ?みたいな気分だったんだ、けど…… それにしたって、あんな言い方はねーし! 「ご……ごめ、ん……オレ……」 「え?あ、ううん、嫌ならいいんだけど、」 「いや!じゃなくて!あんときはなんつーか、いや、でもごめん!」 「出来たら、呼んで欲しいデス……名前で……」 バカなオレの要求に、美奈子ちゃんはまた少し目線をウロウロさせて、それから囁くように 「……えっと……旬平、くん?」 ほら、やっぱり、運命はオレのものだ! END ――――――― ひ、ひでえ!なんだこれ! ローズクイーン完璧バンビがニーナを超好き、っていうのがたまらなく好きで、 無駄にローズクイーン・超一途プレイ設定です。すいません。 一番始めにニーナ攻略したとき、「旬平くん」呼びでエライ怒られてですね。 名前+くん呼びがジャスティスの私としては、何をそんなに怒るかね!?と驚いたものです。 そんな話です。色々メタチックなこともバンビに言わせてすみません。一応ギャグということで……。 琉夏くんコウくん玉緒先輩、は、普通状態でも呼んでいいメンバーです。 あ、例のセリフはちゃんと恋の教科書こと攻略本を引っ張り出してきてまで書きました。 普通状態のときのニーナって結構ヒドイこと言いますよね。でもそんなところも好きです(真顔) 2011.06.05 →目次へ戻る →TOPへ戻る |